日本人初の全米催眠療法協会認定ヒプノセラピー講師 中島勇一によるグループセッション
日本人初の全米催眠療法協会認定ヒプノセラピー講師 中島勇一によるグループセッション


2005年2月1日

「プロセス(過程)を受け入れられますか?」

 新しい年の始まりに、皆さんはどのような願いを心に抱いていますか?その願いを現実のものとしている新しい自分が、いつ頃あなたのところにやって来るのか、楽しみですね。

 願いを叶えるために、まず始めに必要なことは、「私のゴールはこれだ」と願いを具体的に明確にすることです。

 ヒプノセラピーを受けに来られる方も、多くの場合「自分の○○を変えたい」というゴールを持っているので、私はその願いを実現するお手伝いをしているとも言えるでしょう。催眠の中では意識と無意識が互いに助け合うようになるので、よりスムーズに、ゴールに近づいて行くことができるのです。


■プロセス(過程)とは


 しかし、ときにはなかなか思ったようにゴールに近づくことができないケースもあります。そんなときには“プロセス(過程)”というものの見方が役に立ちます。

 A子さん(32歳)は数年前に離婚しています。前の夫は仕事熱心で経済的には満たされていました。しかし彼女の気持ちをまったく理解しようとせず、横暴に振る舞っていたそうです。

 その後3年ほど経ち、離婚の傷も癒えたころ、ボランティア活動で同い年の男性と出会いました。彼の少し気弱でデリケートな性格が、前の夫と正反対のように思え、A子さんは自分が守ってあげたいという気持ちになってお付き合いが始まりました。結婚はもうこりごりと思っていたA子さんですが、誠実な彼と付き合っていく中で、この人とだったら幸せな結婚ができるという気持ちになりました。結局、彼女の熱意に押されるようなかたちで彼の方からプロポーズしたそうですが、仕事が不安定な彼は実際のところは結婚に消極的だったのです。

 結婚の準備を進めていくうちに、デリケートな彼は、ちゃんとA子さんを養っていけるのだろうかという心配が大きくなって、次第にふさぎ込んでいきました。そんな彼を見ていた同じ職場の女性が、なにかと彼の面倒を見てくれるようになり、優しい彼はその女性の好意を断れないまま付き合うようになってしまいました。それを知ったA子さんは、裏切られた気持ちでいっぱいになったそうです。

 彼と別れてからのA子さんは、彼を恨む気持ちと、あのときもし彼を許してあげていたら、今頃は幸せな結婚をしていたのに、という後悔の気持ちで、離婚したときよりも一層ひどく落ち込んでしまうようになりました。

 A子さんは幸せな結婚を切望しているのに、思ったようにゴールに近づいていません。近づいていないどころか、どんどん遠く離れてしまっているようにも見えます。ここで、この状態をゴールに近づくプロセス(過程)だと受け入れることができれば、ものごとは劇的に変化していきます。しかし大抵の場合、私たちはA子さんと同じように、一見望ましくない変化を受け入れられず、プロセス(過程)の流れに逆らって、ますます苦しい立場になってしまいがちです。自分が目指すゴールの方向に向かって進んでいるのか、確信が持てなくなってしまうからです。

 なぜ、進むべき道を見失ってしまったように感じるのか、それには2つのことが考えられます。

 1.意識が考えている手順では、うまくゴールにたどり着かないことを無意識がわかっていて、その前に、必要な何かを体験させようとしているとき。

 2.意識が求めているゴールを達成すると、何か不都合なことが起きるのを無意識がわかっているので、もっと大切な別のゴールへと無意識が導こうとするとき。

 このような場合、私たちは無意識によって思ってもみない状況へと引っ張られていきます。当然、自分ではそれがゴールに到達するのに必要な体験とは思えないし、自分にとってよりふさわしいゴールに向かっているプロセスだとは気づきません。自分は何をしてもダメだと嘆いたり、変化に必死で抵抗しようともがいたりします。抵抗しようとすればするほど、なぜかその場所に滞ってしまうのです。


■プロセスを受け入れていると物事がスムーズに変化していく


 人生におけるプロセスについて語っている中国の有名な昔話に「塞翁が馬」というお話があります。

 あるところに馬を飼っているお爺さんがいました。あるとき、その馬が原野に逃げ出してしまいました。村人が「悪いことが起きたね」と言いました。お爺さんは「何が悪いのか良いのか、わからないよ」と言います。

 しばらくすると、逃げた馬が野生の馬の群れを引き連れて戻ってきました。村人が「良いことが起きたね」と言いました。お爺さんは「何が良いのか悪いのか、わからないよ」と言います。

 あるとき、お爺さんの息子が野生の馬の調教をしているときに落馬して足の骨を折ってしまいました。村人が「悪いことが起きたね」と言いました。お爺さんは「何が悪いのか良いのか、わからないよ」と言います。

 その後戦争が始まって、村の若者は兵隊に徴収され、異国で敗れて誰も帰って来ませんでした。でも、お爺さんの息子は足を折っていたので兵隊に徴収されませんでした。村人が「良いことが起きたね」と言いました。お爺さんは「何が良いのか悪いのか、わからないよ」と言いました。

 このお爺さんは、人生に次々と起きる変化の波を、自分の価値基準に照らし合わせて一喜一憂することなく、淡々と受け入れています。何かに執着して不幸を嘆くことに時間を取られない分、物事が早く、スムーズに変化するのです。


■“こだわっている状態”に“ゆだねている状態”を重ねる


 前述のA子さんのように、思うようにならなくて気持ちばかりがはやり、そのこだわりに意識が強く働きすぎているクライアントには、無意識のおもむくままに身をゆだねている状態を体験させてあげるのが効果的です。幸いにも彼女は学生のとき軽音楽部でピアノを弾いていました。中でも数人のグループで即興の演奏をしているときが大好きだったといいます。

 催眠状態で、そのときの演奏を再体験してもらいます。メンバーが奏でる音に反応して、彼女の内側から湧きあがってくる感覚のままにピアノの音色が紡ぎ出されていきます。彼女の音に反応して、メンバーが即興で返してくる音の流れに身をまかせて、催眠中の彼女の指はひとりでに宙で動いていきます。周りの音の変化に身をゆだねていくにつれて、何も考えずに、ただ音楽と一体になっている状態が訪れます。言葉で表現するのは難しいのですが、この無意識からの流れに身をゆだねている体験をしてもらいながら、今の彼女が気になっていて、こだわっている状態を重ねていく作業をしました。すると彼女は静かに涙を流し始めました。しかし、頬をつたう涙を拭うこともせず、彼女の指は見えないピアノをいつまでも弾き続けていました。

 それから1年、彼女は優しさと強さを合わせ持った男性と出会って結婚しました。変化に逆らわずしなやかに身をゆだねていく感覚を取り戻した彼女は、人生で驚くほど早いスピードで多くの物事が変わっていく経験をしたそうです。以前は頑張っても変わらなかったものが、今はひとりでに変化の波が彼女を乗せて流れているような感じがするといいます。
 

■プロセスの体験は、ものの見方が変わっていくためのレッスン


 何かにこだわってしがみついているとき、「実はこだわっていたこと自体がプロセスだったんだ」と思えるような体験をするまでは、なかなか手放せないものです。

 前世療法では、死の場面を体験します。そして、死んだあとに自分がどのように生まれ変わっていくのかを体験します。これは催眠の中のイメージなので、必ずしも輪廻転生を証明することにはなりません。しかし輪廻を信じていない人でも、無意識のうちに「死は終わりではなく、次の転生へのプロセスなんだ」という感覚を体験することから、死への恐怖が軽減することが多いのです。その結果、より生き生きと自由にこの人生を楽しむことができるようになります。

 私たちは様々なプロセスを体験することで、知らず知らずのうちに価値観が変わっていき、ものの見かたも変わっていきます、そして後になってみて、「ああ、あれはそういうことだったんだな」とうなずいて、こだわっていたものを楽に手放すことができるようになります。

 人生は“プロセスを受け入れることが上手にできるようになるためのレッスンの繰り返し”とも言えるのです。


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