日本人初の全米催眠療法協会認定ヒプノセラピー講師 中島勇一によるグループセッション
日本人初の全米催眠療法協会認定ヒプノセラピー講師 中島勇一によるグループセッション


2008年2月

「セラピストになる」


 あなたがセラピーを受けるとしたら、どのようなセラピストに出会いたいと思うでしょうか?

 以前ある女性が、「人を癒して、感謝されるような仕事がしたいので、今度、整体の学校に行こうと思っているんです」と言っていました。それから何年か経って、偶然彼女と出会う機会があったので、「整体の学校に行くって言っていたけれど、あれからどうしたの?」と聞くと、彼女はその学校を卒業した後に、治療院のインターンとして実際に現場に出たそうです。しかし、そこで毎日毎日、病人と接しているうちに気が滅入ってきて、「自分は病気の人が苦手なんだ」と思い、整体の仕事を辞めてしまったそうです。


■つらい気持ちに共感できることが大切


 あなたは、暗く落ち込んでいる人と一緒にいると、自分まで暗い気分になったり、悲しんでいる人といると悲しい気持ちになったりした経験はありませんか。これを「共感」といいます。人と人が一緒にいると、自然に起きてくる心の作用です。楽しい気分の人と一緒にいて、こちらまで楽しくなるのは気持ちの良いことですが、ほとんどの人はネガティブな気持ちの人と一緒にいることを気持ち良いとは感じません。ネガティブな気分に共感してしまうからです。前述の女性のように、気が滅入ってしまうのが普通の反応です。

 ところが逆に、暗い気分の人は、明るく元気いっぱいな人と一緒にいると疲れてしまいます。むしろ自分と同じように、沈んだ雰囲気の人と一緒にいる方が、気が楽なのです。ですから、セラピストがクライエントの感じている気持ちに同調して、共感していると、クライエントは居心地が良くなります。自分が感じている気持ちを、一緒に感じている人がそばにいてくれるだけで、心が楽になっていきます。悲しい出来事について話しているときに、そばにいる人が何も言わず、ただ涙を流して話を聞いてくれるだけで、「この人は、まるで自分のことのように私の気持ちをわかってくれているんだな」と思えます。これだけでも、ある程度心が楽になり、癒されるのです。

 セラピストになるために、技術や知識を身に付けるのはプロとして当然のことです。しかし、それだけではクライエントの心には近づけません。セラピストの在り方というか、どのようにクライエントに接するかという態度が、セラピーの結果に大きく影響します。クライエントの気持ちに共感して、一緒にそのつらさを感じていくような態度で接していると、クライエントの心は支えられ、ひとりでに立ち直る力を取り戻していきます。

 セラピストには、それがどんな気持ちであっても、クライエントの気持ちに共感できることが最も大切なのです。


■自分で気づいていない気持ち、その奥にあるもの


 共感には、二つあります。一つはクライエントが気づいている気持ちへの共感、もう一つはクライエント自身が気づいていない気持ちへの共感です。

 たとえば、あるウツ状態の男性のセラピーをしていたときのことです。その人は、「体がだるくて仕事ができない。自分はダメだ」と、ほとんど外出もしないで、引きこもっているそうです。真面目でおとなしい、気弱そうな人物なのですが、私は一緒にいると、なぜか無性にイラ立ってくるのです。イライラして胃のあたりが苦しくなってくるほどです。

 このクライエントは、上司に対してもの凄い怒りをもっていました。しかし怒りを抑圧していることに、自分では気づいていませんでした。その怒りに、私が共感したのです。

 そこで彼に、自分で気づいていない怒りがあなたの中にあるのかも知れないと話してみました。「あなたがこんなに怒りを感じているからには、きっとそれなりのことがあったのでしょう。今までよく我慢してきましたね。そんなことがあったら怒っても当然ですよ。怒ることは、自分を尊重する大切な能力です」と、彼の気持ちに寄り添って話をしていきました。

 後になって語ってくれたのですが、長年母親が、短気な父親から暴力を振るわれてきたのを見て育った彼にとっては、怒るということは、父親のような人間になってしまうことでした。それだけは絶対にしたくなかったのです。彼は、ずっと「いい人」として生きてきたそうです。

 父親とのトラウマを解決し、次に、自分の心の中に怒りの居場所を作るワークをすることによって、彼は怒りを感じることができるようになっていきました。そして、怒りの奥にある自分を尊重する気持ちを表現できるようになるにつれて、ウツから徐々に回復していきました。

 このように、クライエントが感じられないでいるネガティブな気持ちの奥には、問題を根本的に癒してくれる答えになるものや、治癒の鍵となる薬のようなものが必ず埋もれているのです。


■セラピストになるために


 クライエントが「悲しい」と言えば、セラピストも「悲しいですね」と、テクニックで返していくことはできます。しかし、クライエントが自分で気づいていない気持ちに共感し、その奥に埋もれている大切なものを見つけ出していくのは、テクニックとしての共感ではできません。その人を救いたい、助けになりたいという、クライエントと対峙する際の真摯な心の在り方と同時に、セラピスト自身の心がどのくらい癒されているのか、どのくらい自分自身の問題と誠実に向き合ってきたかということも、大変重要なポイントです。

 ヒプノセラピー講座の説明会で、ある女性から、「自分にはトラウマがいっぱいあって、今は自分のことで手いっぱいな状態なのですが、こんな私でも学んでいったらセラピストになれるでしょうか」と質問されたことがあります。

 確かに、自分が未解決の問題にまみれているうちは、クライエントの問題に共鳴するので、仕事としてセラピーをしていても、どんどん苦しくなってしまうでしょう。しかし、自分の問題を癒していくことを地道に続けていくと、ネガティブな気持ちと向き合っていく姿勢が育ってきます。すると、クライエントが今まで抱えてきたつらい気持ちを、誰よりもよくわかり、一緒に解決していく手助けのできるセラピストになるのです。

 その後の彼女は、セラピストとしての学びを進めながら、自分の心の癒しを続けていきました。今では、クライエントの深い痛みに共感し、繊細なセラピーができるセラピストに成長しています。

 伝わり合い感じ合っていくうちに、固くもつれていた心が緩んでいき、本来の心の状態へと戻っていきます。そして心は、生きる力を取り戻すのです。傷の向こう側にある、魂と触れ合う瞬間です。人間の美しさ、生命の尊さ、生きることの素晴らしさ…。何度経験しても、この感覚には言葉に表すことの出来ない荘厳さがあります。多くの皆さんにセラピーを体験していただき、今度はセラピストとして、自分の周りの人々に心の癒しを分かち合うことができるようになってほしい。これが、ヒプノセラピースクールで教えている私の願いです。


本サイトの著作権は中島勇一に帰属します。
本サイト内に掲載されている画像・文章等、全ての内容の無断転載・引用を禁止します。


Copyright 2005 H・E・A・R・T All rights reserved.